業界の壁を越えた 工場長移籍プロジェクト

プロジェクト担当者 S.Takaya

 

Chapter1

 その常識を、疑え。

「食品メーカーでの工場長経験は必須です」。
クライアントである食品スーパーA社の社長のオーダーは明確だった。自社の根幹を担う食肉加工センターのリニューアルを率いることができる工場長の招聘。A社は40店舗以上を展開し、毎年120%の勢いで急成長を続ける注目の企業である。A社の急成長を支えているのは、高品質な商品を圧倒的な低価格で提供する「精肉部門」の貢献に他ならない。しかし、その心臓部たる食肉加工センターが需要に追いつけず、会社の成長そのものが止まりかねない状況だった。だからこそ、この改革を率いる工場長には、単なる製造責任者ではなく社長の右腕として、共に会社を創り上げていく覚悟と実力が求められていた。

A社の社長は言う。 「生産性を向上させるため、属人化した作業を自動化できるようなAIやIoTの知見と経験があり、現場社員への”カイゼン”教育もできる人物が適任だ。この条件に合う食品メーカーの工場長経験者を招聘したい」だが、レイノスの担当者である篠崎(仮名)は、その言葉に違和感を覚えていた。「本当に、食品業界の経験は必須なのだろうか?」

Chapter2

 鍵は、異業種にあり。

篠崎は改めて今回のプロジェクトの目的を考えた。 たしかに、社長の要望どおり食品業界の人物であれば食品の扱いには長けているだろう。 一方で、社長が真に求めるのは、単なる工場の安定稼働ではない。老朽化した設備を刷新し、属人化した作業を一掃し、生産性を向上させること。そして、A社の成長を牽引する施設へと生まれ変わらせること。それは、既存のやり方を踏襲するのではなく、ゼロから新たな価値を創造する仕事だ。

「食品業界にこだわる必要はない。むしろ、日本のものづくりを牽引してきたような、先駆的な製造業の知見こそが、この改革を成功に導くのではないか」。

さらに、知識やスキル面を考慮するだけでは不十分だ。篠崎は、A社の企業文化にも着目した。若き経営者が率い、驚異的なスピードで成長する組織。その右腕となる人物には、スキル以上に、変化を恐れず果敢に挑戦する姿勢が求められる。旧態依然とした組織ではなく、変化の早い環境でこそ輝く人材が必要だった。では、その条件を満たす人物は、一体どこにいるのか?

Chapter3

 狙いは、一点。

「X社をリサーチしてほしい」。篠崎は、プロジェクトのリサーチ担当にこう告げた。それは創業者が一代で世界最大手の地位まで築き上げた電子部品メーカーだった。
日本のものづくりを代表する企業は数あれど、なぜX社だったのか。篠崎には明確な狙いがあった。クライアントA社で求められるのは、成熟した大企業で磨かれた安定的な改善プロセスではない。一代で世界的なメーカーへと成長したX社ならではの、徹底したコスト意識と、他を圧倒するほどの実行力とスピード感。それこそが、A社の改革を成し遂げる上で不可欠だと確信していた。 リサーチの末、ようやく一人の候補者、S氏に行き着いた。S氏はX社の中国工場で総責任者を務める、まさに要職中の要職にいる人物だった。

実際にS氏と会った篠崎は、確信を深める。その鋭い眼光と、よどみなく語られる言葉の端々から、幾多の修羅場を乗り越えてきたであろう凄みが伝わってくる。まさに、篠崎が描いた仮説通りの人物だった。「この人ならば、A社の未来を託せる。そしてこの移籍は、S氏の人生にとっても、新たな可能性を切り拓く選択肢になるはずだ」。

Chapter4

 “創る側”の人生へ。

当然S氏は、転職など微塵も考えていない。世界トップメーカーから、規模も業種も異なる中堅スーパーへの移籍交渉だ。その難易度は極めて高かった。篠崎はA社の未来にとってこのミッションがいかに重要かを熱弁し、S氏こそが唯一の適任者だと訴えかけた。そして、最後にこう問いかけた。「エクセレントカンパニーで働くのも良いですが、エクセレントカンパニーを“創る”というのも夢がありませんか?A社は、あなたを必要としています」S氏は、静かに口を開いた。「そんな人生、ロマンがありますね」。

こうして、業界の壁を越えた移籍が実現した。S氏は移籍後早々に結果を残し、取締役に就任。A社の売上高はわずか数年で2倍近くに急成長を遂げた。A社が掲げる「売上高1兆円」という壮大なビジョン。S氏は今、その実現の中核を担い、まさに「エクセレントカンパニーを創る人生」を謳歌している。

レイノスが手掛けたプロジェクトの一部をご紹介しています。